以前、
六月六日の季節便りに載せました、山内神社の絵馬。
長い間社殿の外に掛けてありましたので傷みが激しく、これ以上劣化が進まないように、保存処理をしていただきました。
お隣の土佐山内家宝物資料館で、能面と有職雛の修理・保存に携わっておられた「財団法人 元興寺文化財研究所」の方に実見していただき、ちょうど資料館の企画で来高されるのに合わせスケジュールを組んでいただくことができました。
というわけで、せっかくなので3月28日に土佐山内家宝物資料館で行われた、財団法人 元興寺文化財研究所 山内 章氏による「保存修理説明会」に参加してまいりました。
題は『文化財修理の現場:能面と有職雛の修理』です。
まず修理の流れをパワーポインターを使用しながら説明してもらい、次に展示中である能面と有職雛の実物を見ながら、実際に修理された箇所を自分たちの目で見ることができました。
一見しただけでは、修理前とどこが違うのかな?という感じなのですが、ゆっくりと見ていくと剥がれていた絵の具がぴたりと張り付き、空洞になっていたところもきれいに納まっているのがわかりました。
我々素人は“文化財修理”ときくと、何かぴかぴかの新品に戻すようなイメージを抱きがちですか、現場の原則は
「現状を維持する」ということなのだそうです。
これ以上劣化が進まないよう、最低限のことをする。
そして、その処理はいつでも元に戻せる状態で行うのだそうです。
何十年、何百年後にもう一度修理するとき、また今の技術よりさらに進んだ保存修理の技術が見つかったときにも、もう一度現状に戻してからよりよい状態に処理できるようにしておく。
なんだかすごく崇高な感じです。未来に夢を託すような・・・。
高度成長期の頃には、科学的な薬品を使用したりして処理が行われたときもあったそうです。
しかし、現在は天然の原料である膠を用い、しかもその材料(牛皮や魚の浮き袋)の特性により使用箇所も異なるという事なので、とても繊細なセンスが必要なように感じました。
しかも現在市販されている膠は、化学製品が混じったものがほとんどなので、天然の膠もご自分たちで研究して作っておらるのだそうです(そして、その膠は数年後には市場にでて我々も手に入れることができるようになるそうです)。
そしてもう一つ大切なこと。
山内氏が何回も繰り返しておっしゃっていましたが、決して独断でことを進めてはいけないのだそうです。技術者だけの考えで進めるのではなく、資料の持ち主や周囲と協議しあい、常に“客観的に”修理を行わなくてはいけないのだそうです。
なんだか、私たちの仕事においても気をつけないといけないことですね。
とてもよい勉強をさせていただきました。ありがとうございました。
そして、翌日はいよいよ神社の絵馬の保存処理にとりかかっていただきました。
作業風景はこんな感じです。山内章さまのおっしゃることには、こういう作業は断然女性の方が適正があるのだそうです。こちらも木下さまという若い女性です。

本当に細かい作業です。湯煎にかけた膠を面相筆に含ませ、絵の具の上をなぞります。
細かい馬の毛一本一本まで、たどってなぞっていくのです。すごい細かさです。

仕上がった絵馬です。
粉状になってしまっていた絵の具に膠を染み込ませることにより、描かれた当時の風合いに近い発色が蘇りました。
個人的には朱の部分など、きれいに見えるようになったな~と感動しました。
また、馬も白馬ではなく黄色みがかった色であったようです。
6月6日の画像と比べてみると鮮やかさがわかります。

処理をしていただいたお二人によりますと、馬の毛並みなどかなり細かい筆致で勢いの感じられる絵だそうです。
最初の一文字が読めなかった作者の名前も「松村伸素」ということが判明しました。
今後、この作者についても調査を進めてみたいと思います。
また、資料館にお預けしてある神社関係の文書の中から、この絵馬を奉納した人たちの名簿みたいなものが出てくれば、さらに意義深いものになるなあと楽しみにしています。